近年、日本のシティポップが見直されております。代表的な女性アーチストでは荒井由実、大貫妙子、吉田美奈子、矢野顕子が挙げられるでしょうか。でもやっぱり尾崎亜美も忘れてはいけません。
あのデヴィッド・フォスターも惚れ込んだという天才。ユーミンの妹分という位置付けの亜美さんですが、特に70年代の彼女の作品はもっと注目されてもいいと思うのです。
本作は1978年7月にリリースされた、尾崎亜美3枚目のアルバムです。CMにも使われてヒットした「
マイ・ピュア・レディ」のシングルリリースが1977年2月ですので、その1年5か月後のリリースとなります。
ファースト、セカンドでは松任谷正隆がプロデューサーを務めてましたが、本作よりセルフプロデュースすることとなります。また作詞・作曲のみならず、全曲が本人の編曲。ストリングス・アレンジまで手掛けております。当時弱冠21歳、やはり天才ですね。
参加ミュージシャンは高水健司(B)&林立夫(Ds)のリズム隊に、鈴木茂(G)、松原正樹(G)、佐藤博(Key)を中心とした錚々たるメンバー。
まずはとてもメロウな②「ジョーイの舟出」をどうぞ。
本作中、私の一番のお気に入りナンバーが⑤「来夢來人」。
こうしたバラードはお好みでしょうか。情景が思い浮かぶ切ない詞、メロウなメロディ。この曲こそ尾崎亜美の真骨頂が発揮されているんじゃないでしょうか。
学生時代、彼とよく通った喫茶店「来夢來人」。社会人になり、その彼とも失意のうち別れ、再び訪れた「来夢來人」…。もう一区切り付けたかったのでしょうかね。
この曲、1番が終わり、2番へ入るところで奏でられる鈴木茂のメロウなギターが素晴らしい。そして2番が終わり、間奏へ入る前のコーラス、誰だか分かりますか? オフコースの小田さんと鈴木さんです。そしてその後、この曲の山場を迎えます。聞こえましたか?
「お砂糖はひとつだったよね」「うん」…。
私はそんな会話を交わしたことはないですが(苦笑)、切ない思い出です…。
この「うん」と頷いた声の主は寺尾聡。クレジットには「Memories of the wind:寺尾聰」とありますが、この声のことじゃないですかね。
こちらは5枚目のシングルとして発表された楽曲。
ストップ!とブレイクしたり、アレンジにも工夫の後が見受けられます。ちなみにここでのコーラスも小田さんと鈴木さんです。オフコース、特に小田さんと鈴木さんのコーラスって心地いいんですよね。
皆さん、よくご存じの⑦「春の予感 〜 I've been mellow」。
南沙織が1978年1月に発表した作品がオリジナル。資生堂キャンペーンソングとしても有名ですね。
この曲、尾崎亜美が初めて他人に提供した楽曲で、本人の思い入れも強かったのか、本作にてセルフカバー。もちろん尾崎亜美さんのバージョンも素晴らしいのですが、やっぱり南沙織さんが見事に歌いこなしている本家が素晴らしい。ということで同バージョンをアップ致しました。
かっこいいファンクナンバーが⑧「悪魔がささやく」。
ちょっと本作では異色作ですが、これがまた実にカッコいい。ファンキーなベースは高水健司。随所に顔を出すリードギターは松原正樹。ドブロギターはTed M. Gibsonとクレジットされてますが、こちらは吉川忠英さんですかね。それにしても多彩な尾崎亜美、特にこの曲は凄いですね。
こちらもセルフカバーの⑨「もどかしい夢」。
この曲も南沙織に提供していた楽曲。後に浅野ゆう子もカバーしたという影の名曲。
アイドルに提供していた楽曲だけあって、ちょっと愛らしいメロディ。尾崎亜美の歌い方も可愛いですね。間奏の松原正樹のギターソロも何気にいいですね。
ちなみに本作のコーラスは「AMII'S CHILD」とクレジットされてますが、これは尾崎亜美本人のこと。前のアルバムには「Amii's Army」というクレジットもありましたが、これは山下達郎&吉田美奈子のこと。
ユーミンよりはポップス指数が高いので、あまりお好みでない方も多いかと思いますが、それでも「来夢來人」みたいな叙情的な楽曲は、ちょっと胸に来るものがあるのではないでしょうか。
なんとなく気になる男、クリス・ヒルマン(笑)。
個人的には70年代カントリーロックの中心的人物のひとりであり、カントリー好きにとっては、なんとなく気になる存在なのです。その割には、彼のソロ作品って、日本ではあまり認識されていないような気がします。
クリス・ヒルマンはバーズの創業メンバーとして有名ですが、特に途中で加入したグラム・パーソンズと共にカントリーロックの名盤「
ロデオの恋人」の制作に大きく貢献しました。その後、1968年にグラムと共にフライング・ブリトー・ブラザーズを結成するも、短命に終わり、1971年にスティーヴン・スティルスに請われる形でマナサスを結成。そしてまたまた、こちらも長続きはせず(苦笑)。
ただ、実力者には必ず声が掛かるもので、アサイラムの社長デイヴィッド・ゲフィンがスーパーグループを作ろうと画策。J.D.サウザー、クリス・ヒルマン、リッチー・フューレイに声を掛け、1974年にこの3人を核にバンドを結成し、 「
Souther Hillman Furay Band」を発表。
バーズ結成からここまで、クリスがミュージシャンとしては非常に濃いキャリアを歩んできていることがよく分かると思います。
ということで、このサウザー・ヒルマン・フューレイ・バンド」も当然の如く短命に終わり(笑)、1976年、クリスはアサイラムからソロデビューアルバムを発表するに至ります。
彼の経歴をつらつら書きましたが、そのキャリアを反映するように、本作には多くの名立たるミュージシャンが参加しております。
基本的にはマナサスのメンバーを中心としたメンバー構成なんですが、ザ・MG'sやイーグルスのメンバーなんかの名前も見受けられますね。
プロデュースはマナサスのエンジニアでもあったハワード・アルバートとロン・アルバートのアルバート兄弟。
10曲中8曲がクリス(一部共作)のオリジナル、1曲がスティーヴン・スティル、1曲が後述するドニー・ダカスの楽曲という構成です。
イントロのソウルフルな感じはドゥービーの「Minute By Minute」を彷彿させます。クリスってこんな曲も書けるんだとちょっとビックリ。但しその後のアル・パーキンスのスティール・ギター、ハーブ・ペダーセンとティモシー・シュミットのコーラスで「あ、いつものクリス・ヒルマンだ」と分かります。ただギターはスティーヴ・クロッパーだし、リズム隊はリー・スカラー&ラス・カンケル。クリスにしてはかなりソウルフルな1曲です。
そしてかなりイーグルスっぽい④「Take It on the Run」。
ここでの中心人物はスライドギターのドニー・ダカス。ドニーは前年に発表されたスティーヴン・スティルスの 「
Stills」での参加で注目を集めた人物。そしてこの後、テリー・キャスの後任としてシカゴに加入することになります。それにしてもジョー・ウォルッシュを彷彿させる豪快なスライドですね。
リズム隊はジム・ゴードン&ジム・フェルダー。ジム・ゴードンが叩くと重い重い。コーラスにはリック・ロバーツが参加。いや~、豪華メンバーの共演です。
バラードもご紹介しておきます。それが⑤「Blue Morning」。
こちらのリズム隊はドナルド・ダック・ダン&ジム・ゴードン。ギターはスティーヴ・クロッパー。
この曲なんかは特にクリスの声質が、グレン・フライのようなイーグルスっぽく聞こえますね。この曲の曲調もどことなくイーグルスっぽい。ドカドカ鳴るジム・ゴードンのドラムも、ドン・ヘンリーっぽい。
フライング・ブリトー時代のグラム・パーソンズとの共作の⑦「Down In The Churchyard」。
フライング・ブリトーのカントリーロック調から、大胆にもレゲエ調にアレンジしたもの。乾いた感じ、爽やかなナンバーに仕上げてますね。
アコギ&バリトン・ヴォーカルにバーニー・レドン、バンジョー&テナー・ヴォーカルにハーブ・ペダーセン。フィドル&ベース・ヴォーカルにバイロン・バーライン、そしてマンドリン&リード・ヴォーカルがクリス。クリスのオリジナルの完全なブルーグラスナンバー。実に楽しそうですよね。クリスの真骨頂が発揮された1曲。
気心知れたメンバーに支えられ、全体的にリラックスしたバラエティに富んだ内容のアルバム。いいですね…。
この後、クリスはもう1枚アルバムを発表し、マッギン・クラーク・ヒルマンを結成。
そういえばクリスはロジャーと気心しれているのか、昨年発表されたクリスとロジャー・マッギン、マーティ・スチュアートが組んだ「Sweetheart Of The Rodeo - 50th Anniversary - Live」のアルバムもめっちゃ良かったです。こちらもいずれご紹介出来ればと思ってます。
新年早々、華やかなアルバムでもご紹介しようかなと思いつつ、今回は本ブログらしく、渋い1枚をご紹介致します。
南部アラバマ州に位置する街、マッスル・ショールズ。 サザン・ソウルの地として有名ですが、その発祥として知られているのが名門フェイム・スタジオ。そこから分岐していったのがマッスル・ショールズ・スタジオですね。
今回ご紹介するダン・ペンは、60年代からこのマッスル・ショールズやメンフィスを拠点に、サザン・ソウルの名曲を提供、そしてプロデューサーとしても活動していた人物。代表的な作品として、アレサ・フランクリン「Do Right Woman, Do Right Man」、ジャニス・ジョップリン「A Woman Left Lonely」、ジェイムズ・カー「The Dark End of the Street」等々。フェイム・スタジオでスタジオ・ミュージシャンとして活躍してきたスプーナー・オールダムと組んで、多くの楽曲を提供しておりました。
そんな彼が満を持して発表したソロデビューアルバムが本作。もともと表に出るような性格でもなかったと思われますが、時のSSWブームに刺激を受けて制作されたもの。とにかく渋い!いぶし銀的なアルバムです。
このアルバムにはThe Dixie Flyersが参加。メンバーはチャーリー・フリーマン(G)、トミー・マクルーア(B)、サミー・クリーソン(Ds)、マイク・アトリー(Key)。彼等はマイアミのクライテリア・スタジオの専属バンドだった2年間に、アレサ・フランクリン、カーメン・マクレー、デラニー&ボニー、ジェリー・ジェフ・ウォーカー等多くのサザン・ソウル系アーチストのレコ―ディングに参加。そこでダン・ペンとも交流を深めたものと思われます。
オープニングのアルバムタイトル曲の①「Nobody’s Fool」はThe Dixie Flyersがバックを務めてます。
ダンの渋すぎる歌声。ちょっと切なくなるようなメロディ、サザン・ソウルですね~。
カッコいいホーンはナッシュヴィル・ホーンズ。印象的なスティール・ギターはジョン・ヒューイのプレイ。
渋いミディアム・ナンバーの②「Raining In Memphis」。
こちらはスプーナー・オールダムとの共作。なんか好きなんですよね、この曲。オルガンはスプーナー、ギターはダンの演奏。決して派手な曲ではないんですが、特にアレンジがいいんですよ。
エンディング近くに雨音、ピアノと共にシンセみたいな音が奏でられてきますが、これ、ホーンですかね。雨のメンフィス、寂しさをうまく表現しております。そして余韻を残すように心臓音を模したバスドラが…。
なんと、CCRのカバーが登場!⑤「Lodi」をどうぞ。
原曲はちょっとカントリー風味が効いたナンバーですが、ダンはまるでオーティス・レディングが歌っているようなソウルフルな味付けで仕上げてます。
サザンソウルですね~。キーボードはスプーナー。
ダン&スプーナーの作品。メンフィス時代のエルヴィスっぽい楽曲。仰々しいサビがあるわけでもなく、演奏も極めてシンプル、かつ淡々と歌われるサザン・ソウルですが、特にエンディングの唱法はダンのソウルフルな歌が楽しめます。
ダンの2007年に発表された5作目の作品「Junkyard Junky」にも同名曲が収録されておりますが、こちらは同名異曲のようです。
後にボビー・ブランドがカバーした⑦「I Hate You」。
カントリーワルツですね。ディープ・ソウルをWikiで調べてみると、「南部ソウルの場合、カントリーからの影響も指摘されている」との記述もありますが、この曲を聴けば確かにその通りと感じます。この曲のみドラムはロジャー・ホーキンス、ベースはデヴィッド・フッドのマッスル・ショールズ・リズム・セクションの面々。
渋いですね…。
ダン&スプーナー、実は2023年9月に来日していたんですね。その時の来日記念特集として、ビルボード・ジャパンに、2019年の来日時に書かれたピーター・バラカン氏のダン・ペンへの想いの
記事が良かったです。
ポップス好きな私も、こういう渋いアーチストが気になる歳になってきました…。