本作中、もっとも有名な曲が⑤「So Into You」でしょう。これ、かなりいぶし銀的なサウンドです。メロディも地味、演奏も地味。でもこの曲、ARSの楽曲の中でも人気の高い1曲です。この曲の底流にはサザンソウル的なものが感じられます。また間奏のねちっこいギターソロなんかもソウル感覚溢れるプレイ。でも人気の高いホントの理由はストレートな歌詞にあるかもしれません(笑)。
珍しいスタジオライヴの映像をアップしておきます。長髪のRonnie Hammond(Vo)の容姿は如何にもサザンロック的な感じです。ちょくちょくバックヴォーカルで映るドラムのRobert Nixは、実はBuieと一緒にバンドの多くの楽曲を作ってます。この「So Into You」も2人とDean Daughitry(Key)の共作です。
ちなみに⑥「Outside Woman Blues」のみカバー曲。Blind Joe Reynolds作。往年のブルースで、クリームやジミ・ヘンドリックスもカバーしてました。確かに一聴してジミ・ヘンドリックスっぽいなあと。こんな骨太なブルースもさらりとやってしまいます。器用なバンドですね。
「I Can Hear Music」といえばビーチボーイズの名カバーが有名ですね。原曲はブライアン・ウィルソンが敬愛していたフィル・スペクター作。元々は1966年のロネッツのヒット曲なんですが、ビーチボーイズのアレンジがあまりにも素晴らしく、完全にオリジナルを凌駕してしまいました。
この「I Can Hear Music」は、ビーチボーイズの1969年発表の「20/20」に収録されているのですが、そのジャケットにはブライアンは居りません。当時、廃人同然となってしまっていたブライアン、もうスタジオ収録にもあまり参加出来なくなってしまいました。そんな状態の中、頑張っていたのがカール(ブライアンの実弟)です。そしてこの曲はカールがプロデュースしたものなんですね。
さて、今回気になったのは上の映像ではなく、1996年に発表された「Stars And Stripes Vol.1」からの1曲。CCMの世界では有名なKathy Troccoliがリード・ヴォーカルを務める「I Can Hear Music」です。私はKathyが何者なのか、全くわかりませんが、この当時は37歳。かなりパワフルでちょっとハスキーなヴォーカルが魅力的です(ちなみにKathy、1982年デビューのベテラン歌手です)。
ハードロックのインスト名曲というとMSGの「Into The Arena」がありますが、この「Kamikaze」は明らかにマイケル・シェンカー、いや「Into The Arena」を意識した作りですね。このシャッフル系リズムといい、ギターワークといい、どれを取ってもクリソツ! でも・・・、やっぱりエイドリアン流、というかヴァンデンバーグなんですよね。ホント、かっこいい1曲です。アップしたのは1984年の来日ライブ映像。タイトルが「Kamikaze」と付けられていないのは、当時は新曲扱いだったからでしょう。
「Kamikaze」だけでも聴く価値のあるアルバムですが、他にもいい曲が詰まってます。①「All The Way」はイントロから効果音がたっぷり収録されたポップなハードロック。コーラスがぶ厚いですね。
いや~、これぞ80年代ポップロック。③「Once In A Lifetime」。これはデフ・レパードっぽい。従来からのファンには不評だったでしょうね。アップしたのは当時のPVですが、作りがMTVを意識した、モロに80年代!いいですね~。個人的にはこういうのはアリです。
もう1曲のハイライトが⑥「Fighting Against the World」。これも正統派ハードロックの流れでしょう。本作はポップな曲から正統派インスト、ハードロックまでバラエティに富んでいながらも散漫な印象を受けないところが素晴らしい。この曲もサビのコーラスがぶ厚いですね。エイドリアンのギターリフもカッコいいし、ギターソロも弾きまくってます。
本作中、当時一番オンエアされた楽曲が①「Hiroshima」。イントロのギターリフはMSGの「Armed And Ready」を連想させますが、典型的なリフということでしょう。適度にスリリングで、かつタイトル通りのゲイリー怒りの反戦ソング。そしてチャーリーのヴォーカル。個人的にはチャーリーのことはあまり知らないのですが、なかなかのシャウトです。特にエンディングのスクリームは鳥肌モノです。でもやはりこの曲のハイライトはやっぱりギターソロでしょう。高速速弾きなのに、まったく狂いのないギターソロが堪能出来ます。ギターソロに入る直前のリフは三味線を本当に弾いているとのコメントも見られますが、私には三味線を模したギター音に聞こえます。
④「Don't Let Me Be Misunderstood」は邦題「悲しき願い」、そうアニマルズのカバーです(日本では尾藤イサオで有名な曲)。この曲のみカバーで、あとは全曲ゲイリーのオリジナル。ヴォーカリストとしてのゲイリーもなかなかのものですが、ここでのヴォーカルはチャーリー。でもなんとなくゲイリーの声質と似ているような気がします。この「悲しき願い」なんか、一瞬ゲイリーが歌っているのかと思ってしまいました。
⑤「Run to Your Mama」は典型的なシャッフル系ハードロック。こういうロックって、個人的には好みです。サビも如何にも80年代ハードロックっぽい。こうしたリズムはトミーのドカドカドラムがぴったりですね。またドンのキーボードとゲイリーのギターの掛け合いソロも実にカッコいい!
ボビー・チャールズって日本では知名度低いかもしれません。ビル・ヘイリーがヒットさせた「See You Later Alligator」の作者といった方がいいかもしれません。フィフティーズ・ロックンロールのライターだった訳ですが、本作でのサウンドはそれらとはまったく違う、とてもスワンプな、心の落ち着くサウンドなんですね。
そして3曲目が③「I Must Be In A Good Place Now」。①②とは一転、今度はいぶし銀バラードが続きます。ボビーのしぶいヴォーカルと楽曲が見事にマッチし、心に染みます。この①~③の流れが本作の魅力であり、永らく本作が名盤とされる所以なのかもしれません。
⑥「Small Town Talk」はリック・ダンコとの共作です。もちろんリックもソロアルバムで披露していますが、ボビーのバージョンの方が素朴です。ひたすらバッキングに徹しているキーボードの音色が魅力的です。春本番の今日この頃、こんなGood Time Musicに浸り、ボーッとしていたいですね。あ~、まどろんでしまいます。
⑨「I'm That Way」。軽快なスワンプ系ロックンロール。この時代のボビーならではのロックですね。ブギウギ調のピアノがニューオーリンズ系っぽい。
タイトルはズバリ「Bossa Nova U.S.A.」。このタイトルにブルーベックの自信が表れているような気がします。そして1曲目も①「Bossa Nova U.S.A.」。このスウィンギーなドラムのリズム、これは実はアルバム・エンディングに収録されている⑩「This Can't Be Love」のリズム・パターンのリプライズなんです。「This Can't Be Love」は別にボサノバ楽曲ではありません。1938年のミュージカル「The Boys From Syracuse」で発表されたポピュラーソングで、ナット・キング・コールやエラ・フィッツジェラルド等によってカバーされたようです。
この①と⑩、イントロが一緒なんですよ。ドラムが4小節リズムを刻むイントロですが、全く一緒。そして後に続くベースパターンまで。この辺の凝った演出がブルーベック節ですね。もちろん「Bossa Nova U.S.A.」はデイヴ・ブルーベック作。そしてこの曲のみならず、アルバム全体に云えることは、ドラムのジョー・モレロのリズムとポール・デズモンドのアルト・サックスが心地いいこと。素晴らしいです。