AORの元祖と云われているボズ・スキャッグスの「シルク・ディグリーズ」が発表されて40年。つまりAORが誕生して40周年ということを記念して、ソニーからAORの名盤100枚が1,000円で限定発売されてます。いろいろ悩むところですが、管理人はまずはディオンヌ・ワーウィックとファー・クライをチョイス。
ディオンヌというとブラコンというより、ポップスよりの歌手というイメージですが、本作は管理人が大好きなAORなんですね~。それもその筈、本作、ジェイ・グレイドンが全面的にプロデュースした作品で、当時のAORの香りが漂いまくる名作なんです。
ディオンヌは1979年にアリスタレーベルへ移籍後、アルバムを2枚発表。そこそこヒットを記録したのですが、3作目は更なるヒットを目論み、アリスタのクライヴ・デイヴィスが、当時、流行していたAORに目を付け、そのムーブメントの中心人物でもあるジェイ・グレイドンにプロデュースを依頼。レコーディング・メンバーもグレイドン=フォスター・ファミリーの面々が参加してます。
アルバムトップの①「For You」はジェイとリチャード・ペイジ、ジョン・ベティス(カーペンターズでの仕事が有名ですね)の共作。ミディアムテンポのAORです。スティーヴ・ガッドのドラムは、ここではおとなしめですが、カチッとしたビートで曲を引き締めてます。ここでの音での主役はデヴィッド・フォスターのローズでしょうか。ジェイのギターはリズムに徹してます。
バラードの名曲②「Friends In Love」。ジェイとデイヴィッド、ビル・チャンプリンの共作。この3人のクレジットを見て「After The Love Has Gone」を連想した方はAORマニアですね。EW&Fの名バラードもこの3人によるものでした。あとこの曲の出だしの男性ヴォーカル、てっきりリチャード・ペイジかと思ってしまいました(独特のハイトーン、そっくりです)。デュエット相手はジョニー・マティス。そしてこの曲、何といっても随所に出てくる一聴して分かるジェイのギターが素晴らしい。シングルカットもされた名曲です!
③「Never Gonna Let You Go」…。我々世代はセルメンこと、セルジオ・メンデスのバージョンで有名でしょう。大御所、バリー・マンとシンシア・ワイルの作品。この曲はクライヴ・デイヴィスがセレクトしたもの。セルメンより早く、つまり公に発表されたという意味では、ディオンヌの方がオリジナルということらしいです。でもやっぱりセルメンの方がいいかな~。当時はこんな泣かせる曲があるのか!と感動したものです。ディオンヌ・ヴァージョンの聴き所は、やっぱりジェイのギター。ギターも含めてアレンジは完全にAORバラードです。
④「Can't Hide Love」は完全にブラコン系AOR…。EW&Fで有名な曲ですね。シンコペーションを効かせたキレのあるドラムはスティーヴ・ガッド。しかしこの曲なんかはディオンヌが歌う意義があったのかどうか、正直疑問です。楽曲やアレンジのクオリティは極めて秀逸なんです。でもこれはEW&Fやジェイ・P・モーガンなんかのアルバムを聴けばいいのであって、従来のディオンヌらしくない…というのが本音でしょうかね。
⑤「Betcha by Golly Wow」はスタイリスティックスが大ヒットさせた名曲。フィリーソウルの名曲をジェイ・グレイドンのアレンジで聴ける幸せを感じます。あまり聞こえませんが、ここでのアコギはラリー・カールトン。
以上がA面ですが、①~⑤まで完璧な楽曲・アレンジですね。B面も引き続きクオリティが高いです。トム・スノウ作の⑥「More Than Fascination」は、当時流行っていた感じのアップテンポなナンバー。
もうひとつのジョニー・マティスとのデュエットナンバーの⑦「Got You Where I Want You」。心地よいシャッフル系のAORナンバー。これもジェイではなく、クライヴがセレクトしたナンバーのようですが、朝、目覚めの1曲として聴きたいナンバーに仕上がってます。
それにしてもよく分からないのが、本作発表後、半年も経たない間に次作「Heartbreaker」が発売されたこと。本作が発表された直後には、すぐに収録に取り掛かっていたようです。その「Heartbreaker」の制作を任されたのが、ビージーズのバリー・ギブ。バリーもまた、1981年にバーブラ・ストライサントとのデュエット曲「ギルティ」を大ヒットさせており、その手腕が買われたものでした。アリスタのクライヴ…、結局、ディオンヌにはAORは似合わないと判断したのでしょうね。確かに本作④なんかは、大御所のディオンヌが歌う必然性が感じられませんからね。
我々世代にはお馴染みの大ヒット曲「Heartbreaker」をアップしておきます(この曲を聴くと、確かにクライヴの判断は正しかったように感じます)。
あ、ちなみに今回のCD、収録曲順、及びジャケ裏に記載の曲順とライナーノーツや帯記載の曲順が相違してます。素晴らしいアルバムなだけに、ちょっと雑な仕事の印象を受け、残念です。