実はこのアルバム、いつかご紹介しようと思っていて、私の中でなぜかお蔵入りになっていた名盤。
髙橋幸宏さん、素晴らしいドラマーでした。YMOはリアルタイムに聴いてましたが、幸宏さんのドラムについてはそれほど印象に残ってませんでした。それがサディスティックスでのドラミングを聴いてビックリ。それから後追いでYMOを聴き直して、幸宏さんのシャープなドラミングに改めて感動しておりました。
幸宏さんはガロのサポートメンバーとして活動後、サディスティック・ミカ・バンドに加入。1976年にサディスティックスへと転身し、その活動期間中の1978年6月に自身初のソロアルバムとして本作が発表されてます。サディスティックスは同年8月にセカンドアルバムを発表後に活動を休止…。
でも幸宏さんにとってはこの流れとは別に、もっともっと重要な出来事が1978年にあったんですよね。
1978年1月、幸宏さんは矢沢永吉の名曲「時間よ止まれ」のレコ―ディングにドラマーとして参加。そこにキーボードとして参加していたのが坂本龍一。このレコ―ディングの1か月後、細野晴臣の呼びかけによりYMOが結成されます。実際にYMOがレコ―ディングを開始したのは同年7月。つまり幸宏さんにとって1978年はサディスティックス、ソロ、YMOと充実した活動時期であり、自身の名前もユキヒロと表記し出した年でもありました。
音楽的にも充実した時期のユキヒロさんのソロアルバム。悪い筈がありません。
このアルバム、A面とB面ではちょっと違う音楽が楽しめます。

A面はリゾート感覚満載…といった感じでしょうか。
分かっていはいても、1曲目からラテン&サルサな①「Volare~Nel blu dipinto di blu」が飛び出してくる意外性。面白いです。
この曲は1958年にイタリアの歌手、ドメニコ・モドゥーニョが歌ってヒットした楽曲(ドメニコは後にイタリアの国会議員になりましたね)。ちょっとポップな楽曲は意外とユキヒロさんの趣味に合っているかも。ユキヒロさんの音楽性の幅の広さが窺い知れます。
1曲目から一転、今度はジャージー&メロウな②「SARAVAH!」。
ユキヒロさんの自作曲ですが、これが実にまったりとした楽曲。イントロはニック・デカロの名盤「
イタリアン・グラフィティ」を彷彿させるアレンジ。このゴージャスなストリングス・アレンジは坂本龍一。バックのデヴィッド・T・ウォーカーを彷彿させるメロウなバッキング・ギターは松木恒秀。ユキヒロさんのヴォーカルもリラックス・ムード漂うもの。私自身、この曲の良さに気付いたのは最近のことなんですけどね。
イヴ・モンタンの代表曲としても有名な③「
C'EST SI BON」。これまたユキヒロさんらしいカバー。
https://www.youtube.com/watch?v=zr_0pXYJxsM如何にも坂本龍一さんらしいアレンジ。ちょっとレゲエ&スカ風にしたアレンジが心地いい~。コーラスはBuzz(ユキヒロさんのお兄さんが関わったデュオですね)とラジさん。①~③の流れは完全にリゾートミュージック。のんびりしながら聴くのにピッタリですね。
B面は①~③の流れとは全く違うフュージョンタッチな曲が続きます。私が大好きなナンバーが⑥「Elastic Dummy」です。
こちらは坂本龍一作曲のインストで、フィリーソウルからの影響が窺える軽快なナンバー。こうしたフィリー&ディスコチューンってメロディもいいんですよね。今更申すまでもなく、このアルバムはこの曲に限らず、全曲が坂本龍一(Key)、細野晴臣(B)、高橋ユキヒロ(Ds)の演奏です。特にこの曲のユキヒロさんのドラムはシャープですね。そしてこの曲のギターソロも松木恒秀。ラテンタッチでEW&F風なコーラスは吉田美奈子&山下達郎!
これは実に洒落たシティ・ポップ。よく聴くとユキヒロさんのドラムがかなり凝ったリズムを叩いてます。細野さんのベースも冴えわたってますね~。フュージョン的なギターソロは和田アキラのプレイ。
アルバムエンディングはまったりしたナンバーの⑨「Present」。
ユキヒロさんのヴォーカルって安心感がありますね。そして妙に心地いい。この曲はそういったユキヒロさんのヴォーカルにピッタリなナンバーです。そしてこのサビ、ラジさんがバックコーラスのこのサビが大好きです。ポップですね~。この曲のギターは鈴木茂。
髙橋幸宏=YMOの無機質で緊張感のある音楽…を連想されると思いますが、ユキヒロさん、本来はこの曲のようなポップチューンが持ち味かもしれません。
今ではシティポップの名盤とされている本作、いいですよね。個人的にはユキヒロさんのソロ作品はコレしか聴いたことがないので、他もチェックしてみようと思ってます。それにしてもホントに残念…R.I.P.
今度はデヴィッド・クロスビーの訃報。2021年発表の「
For Free」はこのブログでもご紹介済ですが、かなり素晴らしい作品でしたので、まさか彼が闘病生活を送っていたとは、全く知りませんでした。彼が関わった作品も多数あるので、またいずれ、ここでご紹介出来ればと思ってます。
さて、今回はローリング・ストーンズです。
本作は1973年発表の11枚目(英国)のアルバムで、ファンの間でも評価の分かれる作品ですね。名作「
Exile on Main St.」発表後の北米ツアーを1972年7月に終え、休暇の後にジャマイカに入り制作されたもの。ちなみに山羊の頭のスープって、ジャマイカでは媚薬と見なされており、非常に美味しいようです。
評価がかなり偏向しているローリング・ストーンのレコードガイドによると、なんと本作の評価は☆(星ひとつ)…(泣)。ストーンズの作品で☆ってそんなにないんですよね。かくいう私もこの作品、それほどの印象は持っておりませんでした。本作からのヒット曲は⑤「Angie」ですが、私自身はこのバラード、あまり好きではなく、その印象がそのままこの作品のイメージとリンクしていたんですよね。
恐らくこの作品は最初の2曲をどう捉えるかによって評価が分かれるような気がします。
①「Dancing with Mr. D.」はアルバムトップに据えるのはあまりにも渋くて妖しげなナンバー。
アップしたPV…、両ミックの化粧が妖しげ…、このPV見たら、この曲が嫌いになる人、多いだろうなあ(笑)。
本作中、一番ストーンズらしさを感じたのが②「
100 Years Ago」です。
ちょっとスワンプ気味なサウンドですが、ビリー・プレストンが弾くクラヴィネットが結構ファンキー指数を高めてます。そして演奏が熱を帯びていくと思ったら、一旦曲調はスローに。そして再びファンキーなロックが繰り広げられます。ここでのベースはキースのプレイ。このロックが好きだという方は、本作は十分楽しめるんじゃないでしょうか。
こちらもストーンズ流のファンク・チューンの④「Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)」。
豪快なブラスとここでも登場するビリーのクラヴィネットがいいんですよね。ギターソロもちょっと怪しげな雰囲気。このギターソロはミック・テイラーなのかな。
この曲って単純なメロディの繰り返しですが、アレンジが凝ってますね。そういった意味では、ストーンズって実に器用なバンドだったんだなあと感じます。
ストレートなロックの⑥「Silver Train」は往年のストーンズらしい楽曲。
一瞬イントロがCCRっぽいんですが、ちょっと泥臭いロックンロールですね。またここではミック・テイラーのスライドが炸裂しております。カッコいい…。このプロモビデオでもギターソロでスライドを弾くミックが映ってますね。
それにしてもここでの両ミック(ジャガーとテイラー)の化粧はどうも苦手です(笑)。
かなり手の込んだアレンジの⑨「Can You Hear the Music」は結構私のお気に入りです。
まずはイントロのパーカッション(トライアングル?)とフルートの組み合わせが民族音楽を思わせます。その後のメロトロンみたいな音はギターでしょうか。ニッキー・ホプキンスのピアノといい60年代後半のサウンドを連想させます。ただメロディアスな部分もあったり、忘れた頃にバックからイントロのフルートの音が聴こえたり、実に不思議な楽曲ですね。
ちなみにローリングストーン・レコードガイドブックには本作について、「ごじゃまぜというか、終末のはじまりと呼ぶかは、誰に質問するかによって違う」と変な日本語訳で書かれてます。確かに全体的に散漫な印象を与えるアルバムですが、決して☆(星一つ)のような作品とは思えず、むしろなかなかいい作品じゃないかなと感じます(但し①のPVだけは我慢出来ませんが…)。
70年代のストーンズ、様々な音楽をやっており、実に魅力的です。
ジェフ・ベックが我々の前から唐突に逝ってしまった。直前の容態は家族にしか分かりませんが、少なくともジョニー・デップとの共演ライブは11月も普通に行われていたと記憶しています。だから多くの訃報に接してきているロック・ファンも、ジェフの訃報には驚愕・動揺、そして信じられない思いなのではないでしょうか。
私はジェフにはそれほど深い思いはなかったのですが、昨年発表された私が大好きなビーチボーイズの「Caroline, No」のカバー演奏に深く感銘を受け、これほどエモーショナルにギターを弾くギタリストはいないと(今更ながら)強く感じ、フュージョン期のジェフを聴き直していたところでした…。ジェフは昔も今も全くやっていることに変わりはないんですよね。
我々が洋楽を聴き始めた頃は既にエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックの三大ギタリストという定義付けが為されておりました。三者三様、それぞれ違う魅力を放ったギタリストですが、中でもジェフはトリッキーで華麗で、よりエモーショナルなプレイをする方というイメージでした。実際ジェフは他の2人よりもコンポーズした曲は圧倒的に少なく、その楽曲の良さをギターで如何に引き出すか…に専念しているように見受けられましたね。
今回、実は別のグループのアルバムをご紹介する予定だったのですが、ジェフのギターの素晴らしさをご紹介することで、彼を追悼したいと思います。

本作はジェフ・ベックの3枚目のソロアルバムであり、フュージョン三部作「
Blow By Blow」「
Wired」に続く最終作品であります。前2作でパートナーだったヤン・ハマーと、新たにドラムにサイモン・フィリップスを招聘し、制作を開始したものの、どうもジェフ的にはしっくり来なかったようで、ヤン・ハマーの代わりにジャック・ブルースと共演実績のあったトニー・ハイマスと組み、本作を仕上げました。ちなみにベースは元アフィニティーに在籍していたモ・フォスター。サイモン&モーのリズム隊は本作が発表された頃、マイケル・シェンカー・グループのデビューアルバムにも携わっておりますね。
本作には日本人には馴染み深い曲がオープニングナンバーとなっております。それがヤン・ハマー作の①「Star Cycle 」。
アップした映像は1983年のライブ映像。サイモン・フィリップスが笑いながら叩いてます。映像で彼がオープン・スタイル(左手でハイハット、右手でスネアを叩く)であることがよく分かりますね。
①~③まではヤンとの共同作業です。ヤン作の③「You Never Know」はファンク・チューン。
トニー・ハイマス&サイモン・フィリップス作の④「The Pump」。以下④~⑦はすべてトニー&サイモンの作品。
https://www.youtube.com/watch?v=bCvlXpKeGzkこちらの映像はドラムがサイモン・フィリップス。このタイトな楽曲は、一時期のラリー・カールトンっぽい曲調。実際、あとで分かったのですが、この曲、Larry Carlton & Steve Lukater Bandがカバーしていたんですよね。この映像もYouTubeにあり、見てみると、ジェフが如何にエモーショナルなプレイか、ラリーやルークとジェフの違いがよく分かります。ジェフの右手のギターの弾き方、とても特徴的ですよね。アームの使い方とか、実にトリッキーだし。
トニーの華麗なキーボードで始まる⑤「El Becko」は本作中、一番分かりやすくてカッコいいナンバーじゃないでしょうか。
55秒辺りから突然ロック調に変わっていきます。そこから1分16秒辺りでジェフの分かりやすいギターが…、これが実にカッコいい。8ビートロックなのに、サイモンの手数の多いドラムが彩りを添えてくれてます。ロック調のところはサイモンが作ったのでしょうかね。ジェフがそれほど優れたコンポーザーではない一方で、ドラマーであるサイモンが、なかなか優れたソングライティング・センスを持っている点はちょっと意外でした。
本作中、最大のハイライトが⑦「Space Boogie」でしょう。手数の多いサイモン・フィリップスの本領発揮…。個人的にはこうした手数の多いドラミングってあまり好きじゃないんですけどね。
これはサイモン&トニーでないと出せないフィーリングかと思ったら、アップした映像(③でアップした映像と同じクラブハウス)のヴィニーとジェイソン…、そしてタルが完璧に演奏しております。ジェフの変態演奏も凄いですが、ヴィニーのドラムも爆発してます!ジェイソンのジャズ的プレイもカッコいい!!
このクラブ、200名ほどの小規模キャパのようで、当時、ブライアン・メイやジョン・ボン・ジョヴィ、トニー・アイオミ、ジョー・サトリアーニ、そしてロバート・プラントやジミー・ペイジまで見に来ていたらしい。この超絶プレイを間近で見ていた観客…羨ましい。
如何だったでしょうか。こんな素晴らしいプレイがもう見れないなんて…。
最期にジェフの名演「Caroline, No」をお聴きください。まだまだ現役のプレイです。本当に惜しい方を亡くしました。R.I.P.