本作は私の大好きなジェームス・テイラーのコロンビア移籍第一弾のアルバム。それまでの「
Walking Man 」「
Gorilla 」「
In The Pocket 」はAOR系サウンドに寄りで、NY系ミュージシャンを器用したり、プロデューサーをデビュー当時からの盟友ピーター・アッシャーからデビッド・スピノザやレニー・ワロンカー、ラス・タイトルマン等に変えたりと、様々な試みをしておりました。しかしJT的には心機一転、気持ちを変えたかったのか、契約更改のタイミングでワーナーからコロンビアへ移籍します。実際はコロンビアから高額な契約金を提示されたから…という事情はあるのですが…(これは後に別の事象を生んでしまいます)。
本作ではタイトルをシンプルに「JT」とし、プロデューサーをピーター・アッシャー、バンドはザ・セクションを中心とした初期の布陣に戻りました。こうした居心地のよいメンバーとやりたかったのでしょうね。私としては前述の3部作は結構好きなんですけどね…。
ジャケットのアートデザインはジョン・コッシュが担当。
アルバムトップを飾るナンバーは、JTが娘のために書いた、ちょっとAOR風な①「Your Smiling Face 」。
JTの楽曲にしてはエレキギターのリフが強調された、少しロック色も感じられるナンバー。但しメロディは完全にJT節で、私の大好きなナンバーです。
こうして少しロック色が感じられるのは、ザ・セクションのメンバーの演奏がタイトだからと思われます。アップしたライブ映像をご覧頂ければ、何となくそれがお分かり頂けるのではないでしょうか。
過去にこれほどカントリー色が感じられたJTナンバーは無かったかもしれません。カントリーミュージックを演奏するバーであるホンキートンクそのものを歌ってますしね。哀愁漂うスティールギターはダン・ダグモア。ダニー・コーチマーのギターソロもいい味出してます。そしてもちろん一緒に歌っているのはリンダ・ロンシュタット。やはりこうしたカントリーは当時の奥様であるカーリー・サイモンよりリンダの方が合ってますね。
フォーキーで優しいメロディを持つ⑥「Secret O' Life 」は私のお気に入りの楽曲。
このアルバムは1曲目とか、ダニー作の③に代表されるように、ロック色の濃いアルバムというイメージが強かったのですが、実際はこの曲のように、やっぱりJTらしい楽曲が揃っております。
それにしてもJTってギターが上手いですね。この曲のアコギもいい音で鳴ってますし、なによりJTの声が暖かい…。癒しの1曲ですね。
アップしたライブではドン・グロルニックの弾くエレピとリーランド・スカラーのベースが実にメロディアス。 JTはカバーの名手でもありました。本作でも1959年のジミー・ジョーンズのヒット曲⑦「Handy Man 」を全く別のアレンジでカバーしております。
この曲、カバーということを知らなければ、JTのオリジナル曲とも思ってしまうくらいに見事に料理してますね。
原曲はニール・セダカのカレンダー・ガールを思わせるようなダンスナンバー。全く別の曲に聞こえてしまいます。JTが歌ったような、ちょっとほろ苦いようなメロディは微塵も感じられません。JTのアレンジ能力に脱帽します。VIDEO
一応ジミー・ジョーンズの原曲もアップしておきます。
ふたりのセイリングを歌ったもの。歌詞の通り、この頃がカーリーとの蜜月時代のピークだったのではないでしょうか。カーリーのハーモニーも息がピッタリ。
リズミカルな楽曲ですが、地味にバックのザ・セクションの演奏が素晴らしい。そしてこの曲の魅力はやはりエンディングでのカーリーを中心に歌われるエンディングパートではないでしょうか。讃美歌のような清らかなで神聖な雰囲気がします。 この後、引き抜き合戦とばかりに、ポール・サイモンがコロンビアからワーナーへ移籍します。ワーナーの逆襲とみる方々もいたようですね。
そしてその後、たまたまの偶然と思いますが、騒動の二人、ジェームス・テイラーとポール・サイモン、そしてアート・ガーファンクルは3人で「(What A) Wonderful World」を発表します。これもハートウォーミングなカバーでいいんですよね。こちらを最後にアップしておきます。
天才、KANが亡くなられた。私にとってはOne-Hit Wonder「愛は勝つ」の人のイメージ、なのにミュージシャンズ・ミュージシャン…、きっと何かあると思いつつ、亡くなられるまで気付けなかった。ミスチルの桜井さんやaiko、山崎まさよしやASKA、スタレビ根本さん…、秦基博さん、本当に多くの素敵なミュージシャンと共演し、誰からもリスペクトされていた。
そんなKANさんの姿を根本さんがお悔みのお言葉として綴っておられます。恐らくそういった方だったのだろうと思わせるその素敵なお言葉を引用させて頂きます。
「KANちゃんの音楽は誰もが認めるように本当に素晴らしい。だけど俺は、君の人柄も音楽と同じくらい世の中に知れ渡ってほしかったなぁ。平和を、人間そのものを愛してた。有名無名、偉い偉くないに関係なく、どんな人とも平等に接する人だった。『世界で一番好きな人』の歌詞にある、
”遠くで起きてる戦争はいつ終わるのかわからない。せめてぼくらは、ずっとお互いを許しあい生きよう。僕は誰とも争わないし、誰を憎む根拠もない”。
本当にそう思う。でもね、そんな大切なことを、素敵なメロディに乗せてサラっと歌える人はKANちゃんしかいなかったんだよ。」
One-Hit WonderなイメージのKANでしたが、ある曲をきっかけに、ここ数日、彼の曲ばかり聴いてます。
KANは2016年、弾き語りツアーでライヴレコ―ディングした5公演から、厳選した音源をアルバムとして発表しております。繊細な楽曲とは全く正反対のイメージのジャケット。これもKAN流の裏切りなのでしょうか。
根本要さんが歌詞を引用された楽曲、①「世界で一番好きな人 」はアルバムトップに収録されております。その引用された歌詞は後半に登場します。
弾き語りなのでバラード中心かと思いきや、ちょっとコミカルな⑤「ひざまくら~うれしい こりゃいい やわらかい~ 」はKAN流お酒ソング(笑)。
そして私が今更ながらにKANの素晴らしさに気付かされた楽曲が⑩「よければ一緒に 」です。
三谷幸喜さんはKANさんのことを「100%ジョークしか言わない人」と仰り「よければ一緒に」を大好きな曲として挙げ、「優しさとか、温かさだとか。それから、ちゃめっ気とか、知性とか。そういうKANさんの全てがその歌に集約されているそんな曲ですね」と語っておりました。私はちょうどその三谷さんの発言された番組を観ていたので、直ぐにその曲をチェック。冒頭のOne-Hit Wonderな方では決してないということが直ぐに理解出来ました。と、同時に決して押しつけがましい言い方ではなく、あくまでも謙虚に…、そんな人柄が伝わってくるような歌詞にほっこりしてしまいました。そしてこの歌詞、ラブソングですが、このメッセージ、仕事でも一緒ですね。皆の助けがあって、物事が成し遂げられる。
♪ ぼくがひとりでできることなんてなにもない ♪
♪ よければ一緒に そのほうが楽しい ♪
もちろんこの曲も本作に収録されてますが、同じようなスタイルで演奏されたBank Bandとの共演映像が素晴らしい。小林武史、櫻井和寿、亀田誠治、皆、楽しそうですね。よく聴くと、微妙に転調していたり、アレンジも歌詞も凝っております。
このステージ、KANのコスチュームも爆笑モノだし、あの自転車、最後どうするのかなあと思ったら、想像通りの帰り方(笑)。全てが暖かいユーモアに溢れてます。VIDEO
当時は「愛は勝つ」よりも⑬「まゆみ 」の方がだんぜん好きでしたね。
Tears For Fears、いや後期ビートルズ風なメロディが心地いい。確かサイダーのCMに使われてましたね。
もちろんクリスマスソングも収録されてます。⑭「今年もこうして二人でクリスマスを祝う 」、今年のクリスマスはしっとりとこの曲を聴きたいと思います。
KANさんは洋楽が大好きだったようで、かなりその影響が窺えます。例えば「愛は勝つ」はビリー・ジョエルの「Uptown Girl」とか、他にもいろいろありますが、この「今年もこうして二人でクリスマスを祝う」にも海外のクリスマス・ソングのメロディがエンディング以外にもさりげなく挟み込まれてます。とにかくアレンジなんか、随所に拘りを感じさせますね。
KANさん、実は11月3日にサブスク解禁していたんですよね。フランス修業後、2006年からのアルバムだけですが。そしてその直前、10月には大好きだったそのフランスに奥様と旅行にも出掛けてました。11月3日のKANさんのXには、サブスク解禁とフランス修業時代の愛らしい自身の写真も…。そして7日、最後の呟きはビートルズの新曲への感想でした。最後の最後まで音楽を愛していたKANさんらしいツィート。
あまりしんみりとした感じで締めるのも、KANさんらしくないので、最後に秦基博さんとのコラボ、如何にもKANさんらしいエピソードを。
それは2021年に発表されたKAN「
キセキ 」と秦基博「
カサナル 」。この曲、別々に発表されてますが、実はKANさんが仕組んだコラボ企画。詳細は
こちら に書かれてますが、それを公にして一緒の作品にしたものが「
カサナルキセキ 」。そう重なる奇跡なんです。
発表するに際して謝罪会見まで開いたくだらなさ(笑)。というか恐ろしいくらいに洒落ていて、かつマニアック…。「100%ジョークしか言わない人」の真骨頂。そして音楽を知っている人からすると、そんな変人KANはやはり天才なのでした。
私はあなたが「愛は勝つ」だけではないことに気付くのが遅かったけど、これからあなたの作品から元気を貰っていこうと思ってます。これから宜しくお願いします。そして今まで有難うございました。
25日or26日はアメリカン・シンガーソングライターの代表格の方のアルバムをご紹介予定です。
今年、高橋ユキヒロ、坂本龍一ご両名が相次いで亡くなられたということは非常に残念なことでした…。
このお二人が在籍していたYMO。今回ご紹介する彼等の4枚目のアルバムは、私の中では「イロモノ」扱いと認識していたのですが、実はかなりYMOらしい毒気のあるアルバムで、今更ながら最近のヘビロテとなっております。お遊びながらも決してお遊びになっていない、そこがYMOの凄いところ。また全盛期にこうしたアルバムを果敢にも発表したこと自体意義深いことと思われます。
当時、ライブアルバムである前作「パブリック・プレッシャー」が商業的な成功を収め、YMOは人気絶頂期にありました。
それに気をよくした所属レーベルのアルファは、同様なアルバムをメンバーに求めたのですが、それではファンは納得しないとして細野氏が固辞。一方当時多忙を極め、曲作りも進まなかったことから、高橋ユキヒロが気に入っていたスネークマン・ショーのコントを間に挟むことを企図。そしてご存じのように本作はスネークマン・ショーのコントを曲毎に挟んだ、非常に風変わりなアルバムとなったのでした。
あ、ちなみにスネークマン・ショーとは小林克也、伊武雅人、桑原茂一のコントユニットです。
全12曲、ではなく12トラック。このうちスネークマン・ショーのコントが5トラック。ジングル、既発表曲を除くと、純然たる新曲は4曲のみで、アルバム自体が30分に満たないことからも明らかなように、元々はこの作品、10インチのミニアルバムとして発表されたものでした。
当時、私が「イロモノ」として認識していたのは、このコントが収録されていたからですが、実際今聴くと、ブラックユーモア溢れるコントでついつい苦笑してしまいます。それから新曲は明らかにテクノポップなYMOではなく、ロックバンドとしてのYMO、時代の最先端をいくニューウェーブ・サウンドが実にカッコいいのです。このブラックユーモアなコントとニューウェーブ・サウンドが織り交ざり、毒気を超越し、むしろ洒落たセンスを感じさせます。
まずはジングルに続いて収録されている②「Nice Age 」。作詞:クリス・モズデル、作曲:高橋ユキヒロ・坂本龍一。
途中のニュース速報のナレーションは福井ミカ。「22番」というのはポール・マッカートニーが当時入獄していた独房の番号。Coming Up Like A Flower と歌われている歌詞は、当時のポールの新曲「Coming Up」からの引用。ご存じのようにポールは1980年1月の来日の際に、大麻不法所持で逮捕拘留されてしまいます。当時のスケジュールでは、YMOのレコ―ディングにポールが見学することになっていたらしい。そういった背景もあり、このブラックユーモア的なナレーションが入っております。
そしてこの後に続くスネークマン・ショー、ますは③「KDD 」。
https://www.youtube.com/watch?v=wAXauTzL0Ps 日本人と(恐らく)米国人が英語で会話しております。ミスター大平と名乗る日本人は明らかに当時の大平首相をモチーフとしたもの。自分は大金持ちだと自称する大平、自分の会社は超有名だと言い放ち、会社名を聞かれ、K・D・D…と(笑)。当時のKDDI事件をパロディ化したものですね。こんなブラックユーモア、今では音源化なんか出来ないですよね。こんなコントが5本、どれもが毒っ気満載…。よくやるわ…って感じです。
私を狂喜させた楽曲が④「Tighten Up (Japanese Gentleman Stand Up Please!) 」。
こちらは1968年に大ヒットしたアーチー・ベル&ザ・ドレルズのカバーですが、この軽快なR&Bを見事なグルーヴで再演。特に細野晴臣の味のあるベース、そしてこのグルーヴ感こそ、高橋ユキヒロの真骨頂。彼のシャープなドラミングが堪能出来ます。YMOのリズム隊のベストな楽曲じゃないかなとも感じました。
このアルバム、スネークマン・ショーでは日本人を皮肉ったコントが多く収録されてますが、その日本人に対して「Japanese Gentleman Stand Up Please!」との強烈なメッセージですからね~。スタジオ録音では小林克也が叫んでます。
そしてこの曲、なんと米国の著名なTVショー「Soul Train」でYMOが演奏しているんですよ。なんか痛快ですよね。その時の映像がアップされておりました。YMOのマネージャーである伊藤洋一氏がダンスフロアで黒人たちに混じってカッコよく踊っているという有名な映像です(笑)。コレ、後に小林克也氏も「画期的なこと」と語っておりました。ユキヒロさんもカッコいい。アッコさん(矢野顕子)も相変わらず堂々として凄いですね。VIDEO
大村憲司のギターが鋭い⑧「Citizens of Science 」は坂本龍一作曲。
https://www.youtube.com/watch?v=PfPsbeCZB6o 出だしに⑦「ここは警察じゃないよ」のエンディングが僅かに収録されてますが、これは警察と麻薬中毒者のやり取りコントで、スネークマン・ショーの有名なコントのひとつ。興味ある方は是非YouTube等でチェックしてみて下さい。このふざけたやり取りからのニューウェーブ・サウンドです。曲自体は単純ですが、アレンジで一気に聞かせてしまいます。後の英国のニューロマンティックにも繋がる楽曲。ワールドワイドなYMOならではの楽曲ですね。
スネークマン・ショーの⑨「林家万平 」、もちろん林家三平師匠のパロディ、あまりにも下らない(笑)。
アルバム・タイトルにもなった⑩「MULTIPLIES 」は当時流行っていたスカをいち早く取り入れたもの。
そしてエンディングの⑪「THE END OF ASIA 」は坂本龍一の「千のナイフ」からの1曲。こちらをオリエンテッドなアレンジに仕上げてます。何といっても途中の伊武雅人の台詞「あ…、日本は…、いい国だなあ」にまったり感を覚えます。
なんとこのアルバム、オリコンチャートで1位を獲得。如何にYMOの人気が絶大であったか、よく分かります。実際、音楽的なクオリティも非常に高く、スネークマン・ショーのコントも秀逸ですね。