AORの金字塔。元スティーリーダンのドナルド・フェイゲンのファーストソロ洋楽を聞き始めた頃、ラジオから①「IGY」がよく流れてました。当時は短波放送「KYOI」を好んで聞いていたのですが、そのKYOIも今ではどれだけの方がご存じでしょうか?
当時、BCLという海外の短波放送局を受信するという、海外の息吹を日本に居ながらにして感じられるというロマン溢れる趣味(大袈裟ですが)が流行ってました。その一環というわけでもありませんが、この「KYOI」はサイパンから日本に向けて放送されていた音楽専門の短波放送で、遥か彼方のサイパンから届く「IGY」、音が小さくなったり大きくなったりする「IGY」を熱心に聴いていたものです。そんな「IGY」が妙に印象に残ってます。
本作はその「IGY」が収録されている歴史的名盤です。
プロデュースはスティーリー・ダン時代からの付き合いのゲイリー・カッツ。ジャケットから音、詞まで完璧に、極めた世界観が漂ってます。ジャケットは⑥「
The Nightfly」の詞の通り、「ジャズと粋なお喋りを」お送りする「WJAZ」放送局を現しているのでしょう。私の場合、この架空の「WJAZ」局とサイパンの「KYOI」局がダブってしまいます。30代より年上の方は誰でもラジオから新しい洋楽を聞いていたものです。
このクールなサウンド、いいですよね。クールなNY的ベースはマーカス・ミラー。敢えて無機質に叩いているのは意外にもジェフ・ポーカロ。わざと淡々と叩いたのでしょうね。リードギターはラリー・カールトン、セカンドギターはヒュー・マクラッケンとリック・デリンジャー。本作収録の各楽曲は他にも多くの著名ミュージシャンが関わってます。
本作からのシングル・カット、かつドナルド・フェイゲンの代表作ともいえる①「IGY」(正確には「I.G.Y.」ですが)にはドラムはジェームス・ガドソン。ベースはアンソニー・ジャクソンといったかなりR&B的リズム隊が貢献。
敢えてライヴ映像をアップしておきます。盟友ウォルター・ベッカーもギターを弾いてますね(ひょっとしてスティーリー・ダンのライヴ中の演奏でしょうか)。
本作中、唯一のカバー曲が③「Ruby Baby」。
原曲はR&Bなのに、しっかりフェイゲン色に染まってしまっているのは流石。絡みつくようなギターはラリー・カールトン。ホーンはマイケル&ランディ・ブレッカー。ジャージーなピアノはマイケル・オマーティアン。リズム隊はジェフ&アンソニー。
セカンドシングルの⑤「New Frontier」もR&B的なフェイゲンサウンド。
ジャズ風味な⑧「Walk Between Raindrops」もフェイゲンらしいナンバー。
当時からこの曲は好みでしたね~。4ビートジャズだけど、やっぱりフェイゲンっぽい。
ベースはウィル・リー、ドラムはスティーヴ・ジョーダン。本当に楽曲毎に、その曲にあったリズム隊を器用しているって感じですね。でもギターはずっとラリー。ラリー・カールトンは非常に器用なギタリストですから、それぞれの楽曲に合わせて上手く弾いてますね。
この『ナイトフライ』(WJAZ)局もまた、全ての曲にクールなフェイゲン節が漂っていますが、曲自体はバラエティに富んでいますね。AOR、ジャズ、R&B等。
あくまでもラジオ局なので、スティーリーダンの世界(もっといえば「Aja」の世界)を分かり易くした曲ばかりですね。
でもこれだけ完璧な世界観を作り上げただけに、本作を超える作品を作ることは、フェイゲン自身でも難しいのではないでしょうか?
尚、「KYOI」局も1990年頃に閉局となったようです。