松田聖子、通算14枚目のオリジナルアルバム。私の中では松田聖子のアルバムって、1984年の
「Windy Shadow」辺りまでがお気に入りであって、それ以降は殆どスルーしておりました。以降の3年はフィル・ラモーンのプロデュースで海外進出を狙ったり、郷ひろみとの交際→破局、その1か月後に神田正輝との結婚を発表、結婚、出産と彼女にとっても怒涛の時代であったのでは…と思われます。
そういった意味では本作、神田沙也加を出産(1986年10月)した後、本格的に復帰を果たした第一弾アルバムってことで、彼女も、制作陣も相当気合が入っていたことは想像に難くありません。全作詞&プロデュースは松本隆、共同プロデューサーには若松宗雄(松田聖子デビューから携わってきた方、若松氏と松田聖子との関係は本作まで)。作曲陣は…、当時のCBSソニー系のミュージシャン、土橋安騎夫(レベッカ)、いまみちともかた(バービーボーイズ)、小室哲哉(!)、辻畑鉄也(ピカソ)、大江千里、広石武彦(UP-BEAT)、米米CLUB…、そうそうたる顔ぶれですね。
シングルとしても発表されたアルバムタイトルトラックの①「Strawberry Time」。レベッカの土橋安騎夫が手掛けた作品。アレンジも当時流行っていたサンプリング音とか、ロック色の濃いギターとか、懐かしいです。ママドルとして復帰した最初の作品でもあり、やっぱり松田聖子の世界はピンク色のStrawberry Landであることを自ら公言した作品。つい先日アップした松田聖子のJazzアルバムのレビューでも記述させて頂きましたが、やっぱり彼女、こうしたポップスが似合ってます。
ロック調の軽快なビートの②「裏庭のガレージで抱きしめて」はチャック・ムートンなる人物の作品。誰であろう、バービーボーイズのいまみちもとかたさんのペンネームです。間奏でロックチューンのギターソロが出てきましたが、アレンジがキーボード主体のポップス。このキーボードの使い方も当時の流行。バービーのいまみちの作品って感じはしないですね。
イントロから何だか聞き覚えのあるキーボードリフ(笑)。このシンコペーションを活用した曲調、如何にも小室さんらしい。そうです、この③「Kimono Beat」は小室さんの作品。アップした映像はライブですが、実にダンサブルかつリズミカルに歌ってますね。本作は小室さん自身もソロで歌ってます。ちなみに小室哲哉が最初に他人に提供した楽曲は、実は岡田有希子なんです。その最初の曲「Sweet Planet」は彼女が1985年に発表した
「十月の人魚」ってアルバムに収録されてます。余談ですが、岡田有希子のスタッフ陣は明らかに彼女を第二の松田聖子にしようとしていたし、そのアルバムの丁寧な作りも松田聖子と似ています。
名バラードの⑦「雛菊の地平線」は大江千里の作品。本作中、一番メロディが美しい楽曲と思ってます。千里さん(実は大好きなアーチストなので、敢えて「さん」付けで)、この後、松田聖子にシングルとして提供した「Pearl-White Eve」が大ヒットを記録します。本作とこのシングルのB面、計3曲を千里さんは松田聖子に提供してます。
どことなくチャールストン調の⑧「チャンスは2度ないのよ」はアップビートの広石武彦の作品。アップビートって、バリバリのロックバンドなのに、こんな可愛い曲も作れるんですね。こうした明るい、リズミカルな曲って、松田聖子にぴったり。
⑦~⑨の流れ(バラード→シャッフルビートの軽快な曲)って大好きです。⑨「ピンクの豹」は米米CLUBの作品。米米らしいポップチューンですね。そしてこの曲がフェードアウトせずに終わると、再び「Strawberry Time」の最初のフレーズが…。ここで「松田聖子のポップス」は一区切りということなのでしょうか。トータルアルバムを意識したような、心憎い演出(アレンジ)ですね。
確かにラストの⑩「LOVE」というのは、①~⑨までの流れとは一線を画すような、大人のバラード。前年、まだ彼女が妊娠中にレコーディングした「瑠璃色の地球」を連想させるような壮大なバラード。
本作では、まだまだ随所に彼女らしい歌い方で聴き手を魅了してくれます。彼女にしか歌いこなせないような曲もあったりして、本作、意外と名盤なのでは…と感じております(特に音源をアップ出来なかった⑩なんかは、なかなかです)。
そして松田聖子は次作で、AOR界の御大、デヴィッド・フォスターのプロデュース作品
「Citron」で全米進出を目論んでしまいます。 以降、いろいろと模索していく松田聖子、そういった意味では本作(Strawberry Time)って貴重な1枚かもしれません。