私の大好きなジェームス・テイラー(JT)。本作は5枚目のアルバムですが、如何せん、ジャケットの印象が悪い。地味というか…、そもそもモノトーンで暗いし。実際、JTのアルバムレビューなんかを見ていると、本作は他のアルバムと比べると印象が薄いようです。私も同様のイメージを持っていたのですが、じっくり聞いてみると、結構良作であるし、収録曲も素晴らしい。
もともとJTのバックはザ・セクションというバンドが務めており、本作のひとつ前、「One Man Dog」で、ザ・セクションとのコラボがピークを迎えたような気がします。それくらい「One Man Dog」での演奏は、全くスキのない、素晴らしいものだし、そこで一区切りつけたJTの決意もスゴイなあと思ってしまいます。つまり本作は、そのザ・セクションの面々は全く参加しておりません。ここでのミュージシャンは、過去JTとは縁のなかった方々ばかり。そして長年のパートナーだったピーター・アッシャーとも別れ(一部参加してます)、プロデューサーは、ジョン・レノンやポール・マッカートニーと共演していたデヴィッド・スピノザが務めております。セクションとの別れもあってか、このアルバムは不当な評価を受けているような気がしてなりません。
アルバムタイトルトラックでもある①「Walking Man」。目的地に向かってひたむきに歩き続ける男…。楽曲のキーとなるアコギはもちろんJT自身なので、ドラスティックに音が変わったという訳ではありませんが、やっぱりどこかソウルフルな演奏要素が絡み、それはそれで新たなJTサウンドとして捉えることが出来ます。
ロックンロール賛歌の②「Rock 'N' Roll Is Music Now」。大胆なホーンの導入は曲に力強さを与えてます。特にエンディングにかけてのホーンは、ちょっと黒っぽい雰囲気も出ていたりして、従来のJTサウンドには見られなかったサウンドです。ちょっとソウルフルで落ち着いた演奏が、どことなくAORを連想させますし、次作「Gorilla」以降の演奏スタイルにも繋がっているような気がします。
本作はニューヨークきってのスタジオ・ミュージシャン達が参加してますが、この③「Let It All Fall Down」が、そんな彼らの演奏を一番堪能出来る楽曲のような気がします。エレピはジョン・レノンとの共演でも知られるケニー・アッシャー。スライド・ギターっぽいギターはヒュー・マクラッケン。パーカッションはラルフ・マクドナルド。ちなみにコーラスはポール&リンダ・マッカートニーとカーリー・サイモン。
ご存じのようにJTはアップルのプロデューサーだったピーター・アッシャーを頼ってアップルからデビューしますが、その後、JTとピーターはアップルから追い出された恰好となって、ワーナーから再デビューを果たします(ピーターの妹、ジェインがポール・マッカートニーと付き合っていたという縁があったのですが、結局二人は破局。結果ピーターとポールの関係も悪化してしまいます)。JT、ピーターとポールは喧嘩別れした訳ではないと思いますが、それでもここでの再共演は、意義深いもの…と感じますね。
往年のJTファンにはたまらない、フォーキーな⑤「Daddy's Baby」。♪ パパの可愛いベイビー ♪ なんて歌を弾き語ってます。そしてハーモニーを付けているのは当時、JTの奥さんだったカーリー・サイモン。もちろん本作はJTとカーリーの間に生まれたセイラに捧げられた楽曲。
デヴィッド・スピノザとジョーイ・リヴァインの共作の⑥「Ain't No Song」。印象的なコーラスはカーリー・サイモンとピーター・アッシャー。JTのオリジナルソングと言っても通じるようなハートウォームな楽曲。タイトなドラムが印象的ですが、本作全作品、リック・マロッタが叩いてます。
⑨「The Promised Land」は何と先日亡くなられたチャック・ベリーの楽曲。原曲は完全なロックンロール。実はこの曲、本作に収録する前からライブでは演奏していたらしい。YouTubeを見ていたら、1971年にセクションと演奏している貴重な映像がありました!!しかもコーラス、キャロル・キングとジョー・ママのアビゲイル・ヘイネス。この演奏はロックンロールそのものですね。
一応、本作収録バージョンもアップしておきます。ちょっと落ち着いた演奏ですね。
どうですか、JTの新たな挑戦と捉えられた本作。後のJTサウンドの橋渡し的なアルバムとして、重要な1枚だし、中身も充実していると思うのですが。