久しぶりに某所のオフを覗いていたところ、松田聖子の通算10枚目のアルバム「Windy Shadow」が格安で売られていたので、思わず購入してしまいました。1984年12月発表。本作からのシングルは「ピンクのモーツァルト」と「ハートのイヤリング」です。
1984年の彼女のシングルは2月に「Rock'n Rouge」(松本隆/呉田軽穂(ユーミン))、5月「時間の国のアリス」(松本隆/呉田軽穂)、8月「ピンクのモーツァルト」(松本隆/細野晴臣)、11月「ハートのイヤリング」(松本隆/Holland Rose(佐野元春))と発表していくのですが、明らかに人気は下降線を辿っていたように思います。楽曲のアレンジも時代を反映し、段々とキーボード主体の打ち込み系サウンドになっていったような気がしますね。そういった意味では、松田聖子にとっての1984年は、ある意味転換期でもあった訳で、郷ひろみとの熱愛もこの頃のこと。「カリブ愛のシンフォニー」の撮影で11月に共演の神田正輝とメキシコへ行くのですが、いろいろな擦れ違いから、1985年1月の郷ひろみとの破局会見に繋がっていくのですね。
そう考えると、人気に陰りが見られ、私生活でも穏やかではない当時の状況から、やはり本作の立ち位置は微妙なものを感じます。実際に私個人は彼女のアルバムは前々作の
「Canary」辺りまでかなと思ってました。
ジャケットの彼女のメイクも時代を感じさせますね。で、実は本作、初めて聴いたのですが・・・。意外と悪くない。いや、アレンジはYMOの4人目のメンバーとも呼ばれていた松武秀樹氏が幅を利かせているためか、かなりシンセアレンジが施されてしまっていて私の好みではないのですが、やっぱり楽曲がいい。そしてその楽曲に松田聖子のヴォーカルが合っているんですね。
私の一番のお気に入りは前述の2枚のシングルではなく、①「マンハッタンでブレックファスト」。
作詞:松本隆、作曲・編曲:大村雅朗。ファンの間では人気の高い1曲ですが、その詞も当時はセンセーショナルだったらしい。
♪ 目覚めると 横に見知らぬ寝顔が あなたは誰? 覚えてない ♪
マンハッタンではよくある話・・・と松田聖子が明るく歌い飛ばします。松本隆さんも彼女に大人の演出をさせたかったのでしょうか。
アレンジは80年代洋楽をなぞったようなシンセとシンセドラムがチープです(苦笑)。楽曲自体は初期の軽快なポップサウンドを感じさせる素晴らしいメロディなので、ここは初期のサウンドのようにギターをもっと鳴らしてほしかった。コーラスは木戸泰弘さん。私は彼の声・コーラスが大好きです。
②「薔薇とピストル」は「Canary」以来のSEIKO自身の作曲。この曲もメロディは意外とポップです。もし本当に彼女自身が作曲しているのだとしたら、なかなかのものだと思います。ただこの曲はアレンジで随分カバーしていると感じます。もちろん全てが打ち込みサウンドですが、間奏でいい感じに入ってくるサックスがいいですね。
松田聖子のアルバムは、気鋭の作曲家が名を連ねることで有名ですが、本作では佐野元春、矢野顕子、NOBODYが初参戦。佐野さんは前述の通り、Holland Roseという変名で③「今夜はソフィストケート」と⑤「ハートのイヤリング」の2曲を提供。この2曲はリズムパターンが似ており、メロディも凡庸。正直、エッジの利いた佐野さんらしくない曲。
本作は①と同様に飛びっきりのポップスが1曲収録されてます。それが⑥「Dancing Cafe」。この曲も大好きなんですよね。作曲は杉真理。やっぱり・・・という感じですね。サビの ♪ Oh baby baby baby ♪ は如何にも杉さんらしいポップス。最後にサビが転調するところも杉さんらしい。
飛び切りのポップスの後には、NOBODYが作った⑦「MAUI」が続きます。
この曲は本作の中にあって、珍しくシンセポップらしくない、ナイアガラサウンドを聞かせてくれます。私はこの曲、てっきり故大滝詠一さんが作ったものかと思ってしまいました。NOBODYって、もっとロック寄りの曲を書く人達だと記憶してますが、こんなサウンドも作れるんですね。それくらいこの曲、アレンジが大滝さんしてます。間違いなくナイアガラサウンドを意識して作ったのでしょう。
本作のエンディングは⑩「Star」(松本隆/林哲司)。スター歌手の心情を綴ったバラードです。
冒頭の通り、この当時プライベートでは決して穏やかではなかった筈で、そんな心情の中でどういった気持ちでこの曲を収録したのでしょうか。アルバムの中では地味な1曲と思ってましたが、アップしたライブ映像のように、コンサートで聴くといいかもしれませんね。
結局、本作に収録されていたシングル2曲はアップしませんでした(苦笑)。私の中ではそれくらいこの2曲はクオリティが低く感じてしまい、その影響もあり、このアルバムは敬遠していたのかもしれません。これもファンの間では有名な話ですが、「ピンクのモーツァルト」の詞について、後に松本隆氏は「こんなクオリティの低いものも採用されてしまうのか」と思ったとも云われてます。当時、松本さんも松田聖子に提供する詞については行き詰っていた証左とも言えます。
ただこうして聴いてみると、本作は結構いい曲も収録されており、さすがは松田聖子のアルバム・・・と感じさせてしまいますね。